確かに、「ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかった」、「ワクチンを打ったときだけかかった」などと訴える人はいるけれど、こうした現象はなぜ起こるのだろうか。 ワクチンとは、簡単にいえば病原体を体に注射することです。弱ったウイルスを打つ生ワクチン。ウイルスの死体を打つ不活化ワクチン。ウイルスの毒素を無毒化して打つトキソイドの3種類あります。インフルエンザワクチンは、不活化ワクチンです。 インフルエンザにかかる時は、インフルエンザウイルスが口や鼻あるいは眼の粘膜から体の中に入ってくることから始まります。体の中に入ったウイルスは次に細胞に侵入して増殖します。この状態を「感染」といいますが、ワクチンはこれを完全に抑える働きはありません。 「よく『身のまわりでインフルエンザが流行し始めたから』といって、慌ててワクチン接種のために病院に行く方がいますが、すでに流行している段階では、逆に病院でウイルスをもらってしまうケースもあります。予約制の病院で、患者と明確に区切られた時間帯・場所で接種を受ける、あるいはワクチン接種をあきらめ、感染しないためのほかの対策を十分に行って予防に努めるほうが良いかと思います」, ちなみに、「ワクチンを接種しても、流行しているウイルスの型が違うと感染してしまうから、意味がない」という人がいる。逆に「ワクチンを接種すれば、もしインフルエンザにかかっても重症化しない」と言う人もいる。どちらが正しいのか。 今年も残り3か月。インフルエンザが流行する季節が近づいています。新型コロナウイルスとの同時流行が懸念される中、インフルエンザ予防接種はいつまでに済ませればよいのでしょうか。 横浜相原病院の吉田勝明院長に伺いました。 「国内のインフルエンザのワクチン自体は、ウイルスをバラバラにして有効な成分だけを接種しています。すなわち、『不活化』されています。ですから、ワクチンを打ったことでインフルエンザにかかることはありません。インフルエンザの流行が始まった時期の接種の場合、ウイルスの曝露(ばくろ)を受けた可能性はあります」(砂川さん 以下同) また、インフルエンザのワクチンを打ったからといって、ほかの感染症にかかりやすくなることもないそう。 「確かにインフルエンザのウイルスは変異しやすく、ワクチンを接種しても、感染してしまうことはあります。しかし、ワクチンを接種したグループと、接種していないグループとを比較した場合、接種したグループのほうが重症化しにくかったという研究結果があることも事実です」 「インフルエンザウイルスに限らず、ほかの病気の場合も同様ですが、流行する時期に遅いタイミングでワクチンを接種すると、効果が間に合わずにインフルエンザにかかってしまったということです」, さらに、流行している時期に熱を出したなどの症状からインフルエンザだと考え、ウイルスの検査をしてみると、実際にはインフルエンザじゃなかったというケースもあるという。 インフルエンザのワクチンは完全な予防策ではないとはいえ、免疫をつけるには一定の効果があるよう。子どもの場合も地域で予防接種費用の助成があることも多いので、費用のことも含めて、家族で考えてみるのも良いかも。 国立感染症研究所・感染症疫学センター第二室長の砂川富正さんは言う。, 「国内のインフルエンザのワクチン自体は、ウイルスをバラバラにして有効な成分だけを接種しています。すなわち、『不活化』されています。ですから、ワクチンを打ったことでインフルエンザにかかることはありません。インフルエンザの流行が始まった時期の接種の場合、ウイルスの曝露(ばくろ)を受けた可能性はあります」(砂川さん 以下同)
ところで、インフルエンザのワクチンを打たない人の言い分として、よく耳にするフレーズがある。 毎年、冬場になるとインフルエンザワクチンが話題になります。そして、「インフルエンザワクチンは効果あるの?」「インフルエンザワクチンは接種する必要があるの?」「型が違えば、効果がないのでは?」といった議論が溢れます。, インフルエンザはこの病気そのものも大きな影響を与えますが、さらに怖いものが合併症です。今回の記事では、インフルエンザワクチンが発症率だけでなく、合併症も軽減させることの重要性をお伝えします。, 現在接種は任意ですが、このワクチンの効果を考えると、必ず打つべき人が明確になるのです。その対象についても説明していますので、お知りになりたい方はぜひ参考になさってください。, 人間の身体には、ウイルスに感染するとそのウイルスを排除する働きをもった物質(抗体)を作り、次に同じウイルスが入ってきても感染症になりにくくする「免疫」という働きがあります。この働きを利用するのが、ワクチン接種です。, インフルエンザウイルスには様々なタイプがあり、流行するタイプが毎年異なります。世界での流行状況からどのタイプがはやるのかを世界保健機関(WHO)が予測し、それに基づいて日本の研究機関でも検討してワクチンのタイプを決定します。, 「インフルエンザはタイプが外れたら効かない」と誤解されている方が少なくありません。, 確かにインフルエンザは流行するタイプが毎年変わり、その予測の当たりはずれはあります。ですがその予想が外れてしまっても、50~60%は予防効果があったと報告されています。効果は薄れてはしまいますが、それなりの効果は期待できるのです。, 「予防接種をしたらインフルエンザにかかってしまう」という誤解をされている方もいらっしゃいます。インフルエンザは不活化ワクチンですから、感染力はまったくありません。ウイルスの死骸を入れているようなものですから、インフルエンザに感染してしまうことはないのです。, 但し、私自身もそうなんですが、元々免疫力が高くて元気な人は、接種後に熱っぽくなる方がいらっしゃいます。しかし、一晩の安静で改善しますので心配はありません。, 毎年、「ワクチンに意味がないから厚生労働省は集団接種をやめた」とか、「WHOがインフルエンザワクチンは効果がないことを認めた」という類いの噂がネット上でありますが、それは噂にすぎず、本当ではありません。, インフルエンザワクチンには効果があり、接種を毎年受けた方がいいということは、厚生労働省やアメリカの疾病対策センター(CDC)で報告されています。WHOも発症や重症化を防ぐにはインフルエンザワクチンが最も効果的だと公表しています。, 実は、私が以前働いていた病院で厚生労働省のインフルエンザワクチンの大規模な研究が行われていました。特別養護老人ホームに入所されている方をワクチンを接種した群と接種しなかった群に分け、発症・合併症について調べました。さらに、年度を分け、ワクチンは1回で良いのか、2回必要なのかを検討。同様の研究を全国各地で行い、「高齢者の場合は、1回のワクチン接種でインフルエンザの発症を抑え、合併症を減らす」という結果が得られたのです。, ワクチンを理解する場合に感染と発症は分けて考える必要があります。インフルエンザワクチンを接種してもウイルスが身体に入り込むことは防げません。気道にウイルスが侵入してくると、それを防御するのは粘膜免疫になります。これを突破されると、身体に侵入してしまいます。, つまり、インフルエンザワクチンを接種していても、一度はインフルエンザウイルスに「感染」してしまうのです。ですがワクチンの効果はここから発揮され、免疫のスイッチがすぐさま入ってやっつけてしまいます。結果、発症を抑えることができるのです。, しかし、小児や高齢者のように免疫の働きが不十分だと、たとえワクチンを接種していても症状が生じてしまいます。ですがその症状は、予防接種をしなかった場合よりも軽減されるのです。, 以前にもご紹介しましたが、個人の経験談はエビデンスにはならないことを知っておいてください。統計において個人の経験は何のエビデンスにはなりません。ワクチンを接種したが発症したという話は、コマーシャル等で良く見られる「これは個人の感想です」と同レベルの話なのです。, 赤信号で交差点に進入しても、必ず事故が起こるわけではありません。逆に、青信号で交差点に侵入しても事故にあうことはあるわけです。ただし、青信号に従った方が、事故にあう可能性が低くはなります。同様に、インフルエンザワクチンを接種したほうが、発症する確率も合併症も軽減できることは大規模な研究結果で間違いはありません。, 過去にインフルエンザ大流行での多くの死亡は、細菌の二次感染による肺炎によるものであったとされています。つまり、インフルエンザは合併症に特に注意すべき疾患なのです。ワクチンは、発症率を下げるだけでなく合併症の頻度も下げるのです。, 現在、抗インフルエンザ薬にはタミフルやリレンザ、イナビルがあります。発症後に服薬すると一定の効果はあります。しかし、最近では同一シーズンにインフルエンザのA型が治ったあとに、再びB型に感染する人が増えています。, この原因が、抗ウイルス薬による抗体形成の不十分さによるのではないかと言われています。つまり、感染が起こった時にウイルスが薬で除去されることで、十分な抗体が体内で形成されないうちにいったんは治癒してしまうのです。, やはり、免疫機能を考えても、前もってワクチンによる抗体でウイルスを退治する方が確実と思われます。, 実際に罹患してしまうと、高熱は一日で落ち着いたとしても、5日間は学校や仕事を休まねばなりません。その可能性を排除しておきましょう。, 65歳以上の高齢者と60~64歳で心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能に障害を有する人(身体障害者手帳1級程度)は、国が接種を強く推奨する「定期接種」の対象になっています。ワクチンで強い副反応が出たことがある人以外は、接種がお勧めです。, 乳幼児や高齢者、基礎疾患のある人が外出してインフルエンザに罹患することはあまりありません。どちらかというと、家族が持ち込むことが大半です。集団免疫の考えから、家族が予防接種を受けることで間接的に発生防ぎます。, *集団免疫とは、ある疾患へ免疫を持つ人物によって、集団内での疾患拡散が防がれ、結果としてその集団で免疫を持たない人物が感染から守られるという間接的な効果を指す。, 医療・介護関係者は、免疫力の弱った人たちと接するため、インフルエンザワクチンの接種が推奨されています。しかし、教員の予防接種率の低さは困りものです。毎年、インフルエンザに感染した教員を診察する機会が多々あります。予防接種をしていないような教師の元に、自分の子供を通わせたくはないものです。, お子さんでは免疫が未熟なため、ワクチンの効果もつきにくいのです。そのため、2回行う必要があります。ちなみに生後6か月までは、お母さんからの免疫が残っているためインフルエンザにはかかりにくいといわれています。, 大人であれば、すでに免疫が一度作られているため、一度の予防接種で十分な免疫がつきます。時々、2回を希望される患者さんがいますが、1回で十分なことは研究で証明されています。, インフルエンザワクチンの効果の発現と持続時間には個人差があります。一般的にはインフルエンザワクチン接種後2週間目頃から5カ月間程度効果が持続するとされています。, しかし、これにはからくりがあります。厚生省の班会議の研究でも、ワクチン接種前、接種後4週間、8週間しか抗体価の採血は行いませんでした。そのため、9週間以後、どこまで抗体がついているかは不明なのです。, ちなみに、当院で毎年ワクチンを接種してもインフルエンザにかかるスタッフが2名いました。そのため、ワクチンを接種する前に抗体価を測定したところ、前年の接種後1年を経ていても十分な抗体価が認められました。, 学生さんの場合、インフルエンザと診断すると、比較的簡単な診断書を学校に提出して、公休となります。一方、就労している成人の場合、会社等への連絡は、口頭で『病院でインフルエンザと診断された』と伝えれば、了解いただけるケースが殆どです。しかし、なかには診断書の提出を強く求める企業があります。, インフルエンザ患者さんがあふれる外来で、それぞれに診断書を作成する事は労力を要するだけでなく、患者さんへの費用負担も生じます。多くの企業さんには、社員の言葉を信じて診断書を求めることのないように希望します。, 医学博士。岐阜県土岐市を中心に9ヶ所のクリニック、介護施設、リハビリ施設を運営する医療法人ブレイングループ理事長。毎月1,000人以上の認知症患者を診療する日本有数の認知症専門医。開業以来5万件以上の訪問診療、500件以上の在宅看取りを実践している。, 毎日のように、テレビ、本、雑誌では健康情報があふれています。人気番組で放送された翌日には、必ず患者さんから番組内容について質問をされます。その影響力には驚かされます。 情報番組の中では、エビデンス(evidence: …, 【お勧め本の紹介】実践すると効果を実感・わけるとつなぐ―これ以上シンプルにできない『論理思考』の講義, インフルエンザワクチンは発症を100%なくすことはできませんが、発症率を下げ、合併症を減らす有効性は証明されています。. つまり、インフルエンザワクチンを接種していても、一度はインフルエンザウイルスに「感染」してしまうのです。 ですがワクチンの効果はここから発揮され、 免疫のスイッチがすぐさま入ってやっつけてしまいます。 ではインフルエンザワクチンを10月接種は早すぎないのでしょうか? これはワクチンの効果が出るまでにどれくらい時間がかかり、どれくらい効果が持続するかで分かります。 インフルエンザワクチンの効果は接種してから 2週間程度 かかります。抗体が上昇して免疫を獲得するのにこれくらいかかるんです。 「ウイルスの曝露」って、いったい何? ! インフルエンザが流行する季節が近づいています。流行に備え10月1日から全国でワクチン接種が始まりました。今年は新型コロナウイルスの感染が広がる中、インフルエンザと新型コロナの同時流行がおそれられています。, 「インフルエンザは例年気温や湿度が低下する12月〜4月に流行し、1月末〜3月上旬にピークを迎えます。ワクチンの予防効果が期待できるのは、接種した2週後から5か月程度と考えられているので、できれば11月中、遅くとも12月初旬までにはワクチン接種を終えてください」と言うのは横浜相原病院(横浜市瀬谷区)の吉田勝明院長です。, ワクチン接種は病気の治療ではないため健康保険が適用されません。原則的に自己負担で、費用は医療機関によって異なりますが、1回接種で3000円前後、2回接種なら5000円前後といったところです。, 厚生労働省「季節性インフルエンザワクチン接種時期ご協力のお願い」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou18/index_00011.html)、厚生労働省「インフルエンザQ&A」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html). 「インフルエンザのワクチンを接種したことで、局所の反応として腫れたり、熱感を伴ったりする場合もあります。しかし、『鼻水が出た』『風邪のような咳が出る』などの症状を伴う場合は、ほかの感染症にかかっている可能性が高いです」
(取材・文:田幸和歌子 編集:ノオト), 国民の保健医療の向上を図る予防医学の立場から、広く感染症に関する研究を先導的・独創的かつ総合的に行い、国の保健医療行政の科学的根拠を明らかにし、支援する研究所。. それは、「予防接種をこれまで全然しなくてもインフルエンザにかかったことがなかったのに、たまたま予防接種をした年だけかかった。だから自分の場合は、やらないほうが良い」というもの。 !|http://www.ne.jp/asahi/kr/hr/vtalk/infl_appeal0311.htm#Ú, David Ike.com|http://www.davidicke.com/content/view/25191. インフルエンザワクチンは本当に必要なの?と思っていませんか。 小児では、インフルエンザ脳症の予防としても必要です。さらに2020年は、新型コロナウイルスとの鑑別も難しくなってきます。 小児のインフルエンザワクチンについての疑問にお答えします。